問題は工場のミスでも、
素材の不良でもなかった。

この記事でわかること
- サンプルと量産で雰囲気が変わる、典型的な原因
- 加工生地に絶対やってはいけない仕上げ指示
- 生地替え時に確認すべき試験と数値の目安
はじめに

韓国で仕入れた生地で
サンプルを作ったとき、
あの「しぼ感」「柔らかさ」「発色」
が可愛かったはずだ。
それが量産に上がると、
なぜか「普通の服」になっている。
工場のせいではない。
素材ロットの問題でもない。
「仕上げ指示の設計ミス」と
「生地替え時の試験省略」
——この2点が、感性を殺している。
これは品質の問題ではなく、
翻訳の問題だ。
1. 高温プレスが
「しぼ感」を殺す瞬間

実際に起きたこと
韓国の綿素材に
ワッシャー加工・プリーツ加工
が施された生地でのアイテム。
サンプル段階では「しぼ感」が出ており、
ブランドの世界観にぴったりだった。
量産の最終工程で、クライアントから
「きれいに仕上げてほしい」
という依頼が入った。
それを工場再度にそのまま伝えたところ
工場は高温プレスをかけた。
仕上げ後の写真が届いた時点で、
「しぼ感」が消えていることに気づいた。
すぐに品質表示の書き換えと
説明書きの追加で対応した。
もし製品がZOZO等の倉庫に
納品された後であれば——
全品回収の往復送料、再検品費、
下げ札の貼り替え工賃、
販売期間中のサイレント失客。
1ロットあたり最低でも
50万〜150万円の純損失。
その型番の利益は完全に消失する。

この問題は工場のミスでも、
素材の不良でもなかった。
クライアントの「きれいに」
という言葉と、
工場の「プレス=仕上げ」
という解釈が、
誰にも気づかれないまま
一致してしまっただけだ。
なぜプレスで
風合いが消えるのか?

ワッシャー・プリーツ加工は、
熱と物理的な力で生地に
「皺の記憶」を与えて風合いを作る。
高温プレスはその逆——
熱と圧力で「記憶を上書き」する。
構造上、避けようがない。
「きれいに仕上げてほしい」は
プレスをかける指示ではない。
しかし工場にとってプレスは
「仕上げ」のデフォルト動作だ。
この認識のズレを放置すると、
感性は現場で静かに死ぬ。
「生地替え」の油断が招く、
着丈3cm消失
加工製品で
最もやってはいけない禁忌がある。
サンプルから量産へ向けて、
物性試験を挟まずに
生地を変更すること。
「同じような組成だから」
「少し変えるだけだから」
——その判断で、
熱で激しく縮む生地にぶつかった瞬間、
ブランドの命運は尽きる。
プリーツやワッシャーなど
熱をかける加工工程において、
生地の熱収縮が計算に入っていなければ
「量産品が上がってきたら、
着丈が型紙より3cmも短かった」
ポリウレタン混・レーヨン混など、
収縮率の大きい素材で特に発生しやすい。
2. プリーツが
量産後に消える理由

プリーツが流行ったとき、
様々な生地に加工を施す動きがあった。
そこで頻発したのが
「納品後にプリーツが消える」
という事故だ。
理由は明確。
プリーツ加工の薬品を定着させるには
一定以上の熱が必要だが、
綿はその熱に耐えながら薬品を定着させる
構造を持っていない。
| 素材 | 定着 | 実務上の特徴 |
| ポリエステル(合繊) | ◎ | 熱定着が非常に安定。型崩れしにくい |
| TR(テトロン/レーヨン) | ○ | ポリエステル比率が高ければ安定 |
| TC(テトロン/コットン) | △ | 混率と加工条件の事前検証が必須 |
| PU(ポリウレタン)入り | △〜× | 伸縮性が加工の定着を阻害しやすい |
| 綿100% | × | 熱定着困難。洗濯後の消失リスクが高い |

カケン基準の寸法変化率は
洗濯±3〜4%以内が目安だが、
その前段階の判断——
「そもそも加工が保つ素材か」
「熱収縮の見込みはあるか」
——を飛ばすと、
基準内の数値でも現場では事故が起きる。
3. 加工を進めるか止めるか
——収縮リスクの分岐点

カケンテストセンター等の
公的試験データをもとに、
以下で判断する。
| 条件 | 判断 |
| 熱収縮率 1.5%未満 | 許容範囲。そのまま加工・量産工程へ進行可 |
| 熱収縮率 3.0%以上 | 警戒ライン。先上げサンプル加工を実施し、縮み幅を逆算してパターン補正を行う |
| 事前試験なしでの生地変更 | 量産を即時停止。試験を再実施するか、サンプル通りの生地に戻すかの経営判断を要求する |
洗濯やプレスで
3%以上縮む可能性がある生地は、
そのまま量産に流すと
サイズ事故が起きやすいゾーン。
着丈3cmのズレは、
試験1回分のコストと時間で防げる。
参考:一般財団法人カケンテストセンター 公式サイト
4. 仕上げ指示を出す前に
決めておくこと

以下の5項目を、
仕上げ指示を出す前に
ブランド側で確定させる。
- この生地の風合いは、何によって作られているか
- その要素は、熱や圧力で変化しないか
- 「きれいに仕上げる」の中に含まれる工程を、
工場とすり合わせているか - サンプルと量産で、
仕上げ工程が変わっていないか - 生地を変更した場合、
熱収縮率の試験を経ているか
仕上げ後の状態を工場に
写真・動画で報告してもらい、
発注者が確認するフローがあれば、
今回のような事故は出荷前に止められる。
これは工場の義務ではなく、
翻訳者としての
生産管理設計の問題です。
DESIGNLAB.のスタンス

ブランドの感性を、
量産現場に渡せる言葉に変換する。
それだけだ。
「きれいに仕上げてほしい」
をそのまま工場に渡すのではなく—
「この加工生地にプレスをかけると
風合いが変わる。
スチームのみで対応してほしい」
という具体的な指示に翻訳してから渡す。
工場は言われた通りに作る。
だから、言い方を設計するのが
DESIGNLAB.の仕事だ。
韓国の生地が持つ
「しぼ感」「発色」「柔らかさ」は、
多くの場合、ある種の物理的な特性を
犠牲にして成立している。
どこを守り、どこを許容するか、
を設計する。
DESIGNLAB.はその判断を、
感性と数字の両方で行う。
よくある質問
Q. サンプルで気に入った韓国生地の風合いを量産で残すには?
「きれいに仕上げてほしい」
という曖昧な指示をやめる。
「高温プレス禁止、スチームのみ」など、
風合いを破壊しない工程を
具体的に指定・翻訳して渡す。
Q. 量産直前で生地を変更する場合、最低限行うべき試験は?
カケンテストセンター等で
「寸法変化率(縮率)」を
必須で実施する。
熱をかける加工がある場合は
「熱収縮率」の確認も加える。
これを怠ると着丈3cm以上の
サイズ事故に直結する。
Q. 綿100%の生地にプリーツ加工やワッシャー加工を施す際のリスクは?
納品後の洗濯や着用で加工が
消失するリスクが極めて高い。
安定した量産性を求めるなら、
ポリエステル混への素材変更を推奨する。
まとめ
- 「なんか違う」の多くは、感性の問題ではなく仕上げ工程の設計ミス
- 加工生地への高温プレスは、風合いを物理的に消す
- 生地替え+試験省略は、着丈3cm消失などの量産事故に直結する
- プリーツ加工には素材適性がある。綿100%は量産後の消失リスクが大きい
- 熱収縮率3.0%以上の生地変更は、先上げサンプルとパターン補正が必須
- 「きれいに仕上げる」は、具体的な工程に翻訳してから工場に渡す
- 中間確認のフローが、量産事故を出荷前に止める最後の砦になる
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